ケーキ屋の彼
2人は、チョコレート展の近くにあるカフェにいる。
日曜日の昼ということもあり、そこはほぼ満席の状態だった。
「あの……」
「私と秋斗のフランスでの日々が知りたいのかしら?」
なかなか次の言葉を発しない柑菜に、まるで挑発しているかのような声の真莉。
「真莉さんは……今でも秋斗さんが好きなんですか?」
しかしそれには乗らず、柑菜はその質問をした。
真莉はそれに対し、1つふうっとため息をつく。
そして、カフェから見える外の風景を見ながら話し始めた。
外では、カップルや子供連れが整備された道を歩いている。
綺麗に高さを揃えられた芝生は、太陽に照らされていた。
「私はね、秋斗が嫌いなの」
「え?」
思いもしない言葉に、柑菜は横を向いている真莉の顔を凝視した。
「あの人は、弱いのよ。心が。私はね、1日1日とにかく美味しいチョコレートを作りたくて、どんな辛辣な言葉を投げかけられても、どんなに認められなくても逃げなかったわ」