ケーキ屋の彼

柑菜は、美鈴がいる大学のある教室に来ていた。


そこには、美鈴の絵が数枚飾られてあって、柑菜はそれを見ている。


自分の絵とは、印象が違うなと思いながら、美鈴が淹れたコーヒーを飲んだ。


「これ、大学院の資料。……考えてくれたんだ」


「はい、とりあえず、ですけど」


「うん、それでも全然いいのよ」と、美鈴は笑いながら柑菜にそう言った。


柑菜は、押し付けるのではなく、あくまでも自分のペースで考えさせてくれる美鈴だからこそ、こうやってもう一度絵に向き合ってみようと思えたのだと感謝している。


「そういえば、秋斗フランスに行くって決めたんだね」


「そう……ですね」


「なんか、一皮向けたって感じがしたよ、秋斗。よかったよかった」


コーヒーを啜る美鈴の顔は、安心しきったようで穏やかな表情をしていた。


きっと、美鈴も真莉と同じように、秋斗のことを思っていたのだろう。


柑菜は、2人の秋斗に対する思いに感心させられる。
自分では、その弱い秋斗がいることに気付くことができなかったから。
< 157 / 223 >

この作品をシェア

pagetop