ケーキ屋の彼
「ただいま」
柑菜は、家に入るなりそう言う。
子供の頃からの習慣とは、時に恐ろしいものだと柑菜は思っていた。
そして、いつもの通り柑菜よりも弟が先に帰ってきている。
両親は2人が大学入学と同時に単身赴任を言い渡され、結果、この広い家で2人っきりの生活を送っている。
柑菜は、早速お湯を沸かし始めた。
いつもなら、用意するお皿は1つだが、今日は特別で、2人ぶんのお皿を用意する。
片一方はピンクの花柄、もう一方はブルーの花柄が描かれたお皿だ。
それに気付いた涼は、柑菜の行動をじっと見ている。
「2つも太るよ?」
他人が言うと喧嘩になりそうなことも、小さな頃から一緒に過ごす相手から言われると何も思わずにスルーできるものだ。
「違うよ、これは涼のぶん」
「俺?」
不意をつかれた涼は、ソファから立ち上がり、柑菜のもとに来た。