ケーキ屋の彼

「柑菜さん、あとで少しいいですか?」


いつもなら、知り合いがきてもこうやって個人的に話しかけたりしない秋斗。


でも、今日は違った。


「は、はい」


柑菜の隣に立つ男の人は、その柑菜の表情の変化を見て、ピンとくる。


ーー彼女は、この人に惚れているんだ。


「あの、もしかしてですけど、○○大ですか?」


「あ、はい、そうです」


「僕もなんですよ、もしよかったら今度大学で会いませんか?」


「お客様、どういたしますか?」


秋斗は2人の会話を遮るように、男の人に話しかけた。


「じゃあ、おすすめのモンブランにします」


柑菜は、2人の顔を交互に見ながらいつもと違う秋斗に困惑している。


いつも優しさ100パーセントのような秋斗が、妙に人に絡む。


柑菜から見る秋斗の目の奥は、笑っていないように見えた。


それは、初めて柑菜が見る秋斗だった。
< 163 / 223 >

この作品をシェア

pagetop