ケーキ屋の彼
「柑菜さん、あとで少しいいですか?」
いつもなら、知り合いがきてもこうやって個人的に話しかけたりしない秋斗。
でも、今日は違った。
「は、はい」
柑菜の隣に立つ男の人は、その柑菜の表情の変化を見て、ピンとくる。
ーー彼女は、この人に惚れているんだ。
「あの、もしかしてですけど、○○大ですか?」
「あ、はい、そうです」
「僕もなんですよ、もしよかったら今度大学で会いませんか?」
「お客様、どういたしますか?」
秋斗は2人の会話を遮るように、男の人に話しかけた。
「じゃあ、おすすめのモンブランにします」
柑菜は、2人の顔を交互に見ながらいつもと違う秋斗に困惑している。
いつも優しさ100パーセントのような秋斗が、妙に人に絡む。
柑菜から見る秋斗の目の奥は、笑っていないように見えた。
それは、初めて柑菜が見る秋斗だった。