ケーキ屋の彼
店内から、柑菜以外のお客様がいなくなる。
ケーキ屋には柑菜と秋斗の2人、今日は美鈴はいない。
その静かな店内に、柑菜の名前を呼ぶ秋斗の声。
「柑菜さん、これ」
秋斗は、ひとつの小さな箱を柑菜に手渡した。
「柑菜さんのおかげで、僕は一歩前に進むことができたから……それのお礼。家に帰ったら見てみて」
「あ、ありがとうございます」
「あ、あと……なんだかさっきはごめん。会話の邪魔して……」
「い、いえ!」
照れる秋斗の顔を見て、柑菜はそれが移ったのか同じように照れてしまう。
赤く染まる2人の顔は、夕日によってより赤く見えた。
カランカラン……。
2人だけの空間が、その音によって終わりを告げる。
「あ、これ、ください」
小さく可愛らしいかごに入れていたクッキーを秋斗に渡した。
柑菜は、ケーキ屋に来た人にその照れた顔がばれないように、ずっと下を向いていた。