ケーキ屋の彼
「土橋さん、そろそろ交代の時間です」
タイミングが悪いのか良いのか、同じ教育の後輩に言われて、柑菜はネームプレートを外す。
特に何もすることがなくなった柑菜は、どうしようと考える。
特に何もしようとはしない柑菜に対して、空は「一緒に回らない?」と思いついたように言う。
「え……っと」
ーー急に言われても、まだ会ったばかりだし、それに私のこと……一目惚れだって言うし……
。
今日に限って、櫻子と亜紀はどこかに行ってしまっていた。
「ね、行こう」
迷っている柑菜の腕を掴んで、空は教室から出る。
まるでハーフのような外見をした空は、目立っていた。
様々な人の視線が2人に注がれ、柑菜はその視線に耐え切れずに視線を下に逸らす。
「あ、ごめん」
いきなり歩くのを止める空に、その動きについていけずに柑菜は空の背中にぶつかってしまった。
「ああ、僕ったら本当にごめん。突然連れ出したりして、それに……顔、大丈夫?」
急にアップになる空の顔に、その美しさに耐えきれず柑菜は恥ずかしくて顔を横に向けた。
秋斗とは違って、はっきりとした顔の空。
まるで、教室に飾られている彫刻のよう。
「だ、大丈夫です」
「そっか、よかった!」