ケーキ屋の彼
「涼には、ビターなチョコタルト」
はい、とタルトの乗ったお皿を渡すと、涼は椅子に座り、それをじーっと見つめている。
まるで、餌を与えられた犬が、待てをさせられているかのようだ。
皺など一切ない艶のあるチョコレートに、涼の顔が映っている。
数分すると、お湯が沸き、柑菜は2人ぶんのコーヒーを淹れた。
コーヒーのいい香りが、部屋中を満たす。
「いただきます」
柑菜と涼は向かい合って、夕方のティータイムを堪能する。
「あ、美味しい」
「でしょう?」
いつもはあまり美味しいという言葉を発しない涼が、珍しくその言葉を発した。