ケーキ屋の彼

「やっぱり貴方だったのね」


数日後、櫻子の家にいる空。


「あの時はすぐにいなくなったから分からなかったけれど、なんとなく貴方のような気がしたの」


西音寺家に来慣れているのか、空はあくまでもリラックスをしているようだった。


空は出された紅茶を飲むと、ふうっと息を吐く。


「西音寺家の紅茶は、いつ飲んでも美味しいね」


「柑菜ちゃんに何の用なのかしら?」


空の言葉に聞く耳を持たない櫻子は、気がかりであるそのことを空に投げかける。


櫻子には笑顔がなく、その顔は無。


しかし、それに怯えることも恐れることもなく空は口角を上げていた。


「彼女に、一目惚れした」


「え?」


「ダメよ、柑菜ちゃんには好きな人がいるのだから」


「でも、付き合ってはいないんだろう?」


そう言われると何も言えない櫻子は、目で空に威嚇している。
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