ケーキ屋の彼

秋斗と柑菜がお互いに惹かれ合っているのは、はたから見れば分かること。


今更、誰かが入れる雰囲気じゃない。


「あの人にはきっと他の誰かがいる。でも僕は違う。卒業まであと数年。それに、僕だって大人になったんだ、昔の僕みたいに簡単に人は好きにならないよ」


「違うわ。柑菜ちゃんは秋斗さんに出会ったから大学院のこと考え始めたし、秋斗さんは柑菜ちゃんに出会ったからフランス行きを決意したの」


「フランス行き……?」


櫻子は口を手で覆った。


ーー余計なことを言ってしまった……。


空は鋭い目で櫻子を見る。


その視線に、櫻子は耐えきれず横を向いた。


「僕なら彼女を1人にはしないよ」


櫻子の予感は的中した。


きっと彼ならこの言葉を言うと、幼馴染の櫻子にはなんとなくそれが分かっていた。


「…………」


櫻子は、何も言うことができなかった。


空の言葉が、紛れも無く本当のことだから。
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