ケーキ屋の彼

「いただきます」


口の中に入れると、かぼちゃの甘さが口に広がる。


甘々しすぎない自然なかぼちゃの甘さに、白砂糖ではなく甜菜糖の優しい甘さ。


このカフェは、白砂糖を使わないことでとくに女の人に人気だ。


「大学の近くにこんなカフェがあっただなんて、知らなかったよ」


空が知らないのも無理はない。


このカフェは、音楽棟とは逆方向の美術棟の裏側にあり、音楽学部の人の目に入らない。


それに加え、カフェの外見は一見古民家であり、まさかそれがカフェだとは思わないだろう。


「私と亜紀と柑菜だけの秘密だったのよ、なのに……」


じいっと空の方を恨めしそうに見る櫻子。


「まあ、いいじゃないか」


空は、甘く美味しい秋のパイを食べながらそう言う。


その顔は、幸せでいっぱいそうだった。
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