ケーキ屋の彼

少し重くなった空気を変えようと、柑菜は話題を変えた。


「そういえば、渡辺くんは作曲勉強してるんだよね?」


「そう、作曲って意外と理論的で数学や科学みたいなんだ」


「そうなんだ、初めて知ったよ」


柑菜は、知らない分野の話に興味津々の様子だ。


特に、音楽に関してはいつも隣に音楽棟があるのにほぼ関わりがなく、生徒が練習をしている音しか聞いていなかったために、音楽の生徒の話を聞くことができるのは貴重であった。


「柑菜さんの描く絵をイメージして作曲をすることだってできる」


「それ楽しそう……!」


「柑菜ちゃん、空の言葉に乗ってもいいことないわよ」


呆れたように櫻子は言った。


それに、空が本気で柑菜のことが好きなのかどうかもいまだに疑いを持っている。


「だから柑菜さん、ぼくのこと本当に真剣に考えてくれないか?」


「え……」


『だから』の意味がいまいち分からなかった柑菜だったが、その真剣な瞳には嘘がないように思えた。
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