ケーキ屋の彼
「今度連れてってよ、ここのケーキ屋」
ケーキを食べた涼は、柑菜が思いもがけない言葉を発した。
「えっと、道教えるよ」
ーー2人で行ったら、勘違いされちゃうかもしれない。
柑菜は、瞬時にそう思った。
「まあ、それでもいいけど」
「うんっ」
柑菜は、ほっとする。
ーーでも、きっと私が男の人と2人で歩いていたところで、あの人は何も思わないよね……。
何色もの絵の具がぐちゃぐちゃに混ざり合っているような心の柑菜。
ケーキを売る人と買う人、このどこにでもありふれた関係を壊したいと、柑菜は少しだけ思い始めていた。