ケーキ屋の彼
「柑菜ちゃんが困ってるじゃない」
「あはは、ごめん」
「柑菜ちゃんには……」
櫻子はそこまで言うと、それ以上言うのをやめた。
「分かってるよ」
櫻子が言いたいことを空は分かっているようで、ただ一言そう相槌を打つ。
柑菜は緊張をほぐそうと、乾いた喉を潤すために、目の前の紅茶を一口飲んだ。
それはなんだか、さっき飲んだ時よりもほろ苦く感じた……。
「そろそろ時間だ」
空は腕にしてある時計を見ると、何か用事があるようでカフェを出る準備を始める。
「名残惜しいけど、あとは2人で楽しんで」
その言葉を残すと、あっという間に空はカフェからいなくなった。
「柑菜ちゃん、ごめんなさい。なんだか面倒なことになって」
「大丈夫だよ、渡辺くんも悪い人じゃなさそうだし」
「そうね、根は悪くないからこそ、余計に柑菜ちゃんに惚れて欲しくなかったわ」
柑菜は、残ったパンプキンパイを一口で全て食べる。
『一緒にいたら、きっと楽しいんだろうな』と考えてしまった自分が、少し分からなくなる柑菜。
秋斗が好きなのに、空のこともなぜか気になってしまう。