ケーキ屋の彼
「柑菜さん?」
考えている柑菜に問いかける秋斗。
「あっ……」
秋斗の声に反応して、彼の目を見る柑菜。
久しぶりすぎて、その瞳に吸い込まれそうになって、柑菜の必死に隠している思いが外に溢れ出しそうになってしまう。
「えっと……ガトーショコラ、2つください……」
それでも柑菜は自分の心を必死に抑える。
こんなところで振られてしまったら、それならまだこうしていたい。
柑菜は今の心地よい時間を壊したくなかった。
「はい、少々お待ちください」
秋斗は柑菜に背を向け、包装をしている。
秋斗の広くがっしりと背中。
その背中を見つめる柑菜は、やっぱり自分が1番好きなのは秋斗だと再確認した。
誰でもない、このケーキ屋で働く秋斗のことを柑菜は好いている。
だから柑菜は勇気を出して、言葉を絞り出した。
「秋斗さん………………クリスマスの日の夜って、空いてますか?」