ケーキ屋の彼

柑菜はその表情を見て高揚する反面、半分沈んだ気持ちになる。


きっと、櫻子が涼に気持ちを伝えることはない。


もし涼が櫻子に気持ちを伝えたところで、櫻子はその気持ちを受け取るのだろうか。


きっと自分の境遇を変えられないと思い、その恋心に見ないふりをしてしまうに違いない。


「頑張れ」


だから、柑菜は涼に対してこの言葉のみを投げ掛けた。


「…………」


なにも言わない涼の顔は、どこか『負けた』という雰囲気を醸し出している。


ーーそういえば、前に櫻子が言っていた初恋の人の特徴、渡辺くんに当てはまるかも……。


柑菜はなぜだか急に、ふとそんな考えが思い浮かぶ。


もしかして、と考えるが、まさかと思いそれを考えることをやめた。


でももしそうなら、家的にもきっとそれが1番いいはず。


でもそれでも柑菜は、今の櫻子の恋をどうしても応援したいと思っていた。
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