ケーキ屋の彼
柑菜は帰宅すると、櫻子のことについて考え始める。
自分が櫻子の家のように、昔からある由緒ある家なわけでもなければ、ましてや婚約者なども縁遠い話。
でも、櫻子の生活にはそれが普通で……。
どんなに窮屈な思いをしているのか、柑菜は想像してみたが、それは自分ならばきっと途中で逃げ出したくなってしまうだろうと思う。
もし、櫻子が空を好きで、空が今でも櫻子のことを好きなら、どれだけ幸せなことなのだろう。
そんな考えを巡らせていると、部屋の扉がノックされた。
「はーい」
開けると、そこには当たり前のように涼が立っている。
2人で暮らしている家で、涼以外の人物が立っていたら、それはホラーでしかない。
「明日の準備って、明日の午前午後でいいんだよな?」
「うん、櫻子とかもくるよ」
「そう……か、分かった」
それだけを確認しに来たのか、涼はすぐに自分の部屋へ戻っていった。
柑菜は、その涼の背中をじっと見つめていた。