ケーキ屋の彼
ケーキを扱う彼は、まるで宝石を扱うかのように繊細な手つきだ。
決してその形を変えないよう、ショーケースからケーキを取り出す。
その時の、少しだけ張りつめられた空気が、適度な緊張感をもたらす。
柑菜は、ケーキを扱う彼の後ろ姿をじっと見つめた。
その時にふいに見える横顔から分かるすっと通った鼻筋や薄い唇に、柑菜は息を吸うのさえ忘れてしまう。
「では、こちらです」
「は、はい」
ふいに前を向いて、柑菜の目をじっと捉える彼に、思いがけず変な声が出てしまう。
赤くなった顔を隠そうと、下を向きながら彼からケーキを受け取ると、柑菜の指が彼の長く白い指に触れた。
彼が作るクリームのように滑らかな肌質のその指に、柑菜の心臓の鼓動がいっそう早くなる。
「ありがとうございます」
彼の耳に声が届くときの話し方は、いつもよりも、か細く高い声が自然に出てしまう。
「こちらこそ、いつもありがとうございます」
「いえ、ではまた」
まだここにいたい名残惜しさを押さえつけ、柑菜は泣く泣くこのケーキ屋を後にするのだった。