ケーキ屋の彼
午後6時半。
インターホンが鳴り、来客を伝えた。
「今日は呼んでくれてありがとう」
秋斗と美鈴が、顔を赤くして部屋に入ってきた。
外はやはり寒いらしい。
柑菜は、秋斗の姿を見ると、頰が緩んでにやけてしまう。
秋斗が近くにいるだけで、柑菜の心は高まってしまう。
いつからこんなに好きになってしまったのかな……なんて柑菜は自問するけれど、答えは分からない。
ただ、分かることは、とても秋斗のことが好きだということ。
「柑菜さん、今日は呼んでくれてありがとう」
柑菜の目の前に立つ秋斗。
「はいっ、ぜひ楽しんでいってください!」
「うん」
そう言いながら、秋斗は柑菜の頭の上に自分の手を置いた。
「あ、秋斗さん……」
「あ、ごめん、なんか……ううん、なんでもない」
秋斗は、顔を真っ赤にして柑菜から目を逸らす。
可愛かったからつい、その言葉を秋斗は柑菜に伝えるには、勇気がまだなかった。
自分のことをもし好きじゃなかったら、そんなことを考えると、あともう一歩を踏み出せないでいる。
でも、自惚れてしまう自分もいることに、秋斗は悶々としていた。