ケーキ屋の彼
「そうえいば、涼くんはお元気?」
「うん、相変わらず元気だよ」
櫻子は、ほんのり顔を赤くしている。
それはほんの些細な変化で、誰もそれには気がつかない。
そんな櫻子と涼が大学内で出会ったことは、たったの一度しかない。
構内を歩いていた時に、柑菜と涼が偶然会った時だ。
あの日は、桜が散り始めて、ちょうど桜の花びらが風によって舞っていた時だった。
そのなんでもない日が、櫻子にとっては特別な日となった。
「よし、とりあえず、柑菜は一言でもいいから話しかけてみるのが課題」
「そうね、まずはそこからだわ」
ほんのり赤かった頰は、もうすでに元に戻っていた。
そして再び、柑菜の恋の行方を本気で考えている。
櫻子と亜紀から、柑菜に与えられた課題は、柑菜にとっては大きな壁のように感じるのである。