ケーキ屋の彼
ケーキ屋から出て、来た道を戻る。
来るときは上り坂で、帰りは下り坂のこの道を、毎週金曜日に歩くことが日課になってしまった。
住宅街のこの道の左右には、それぞれの家庭で育てている花が、太陽に向かって咲いている。
時折、鎖に繋がれた犬とも目が合い、その度に柑菜は、それらに向かって微笑みを返すのだ。
ふと空を見ると、雲一つない青空が目に入る。
夏の青空は、まるで絵具でその色を作ったかのように濁りのなく透き通った青色だった。
その青空の中に、どこか遠くへ向かうであろう飛行機が飛んでいる。
ーー海外に行って、美術館巡りをしたいな。
柑菜は、まだ見ぬ海外への憧れを心の中で呟いた。
青い空から再び前に視線を戻すと、帽子を被った女の人が歩いてきた。
夏の日差しのせいなのか、深く被った帽子の中にある顔は見えない。
いつもなら、すれ違う人を気にしたりはしない柑菜であるが、今日は違った。
その女の人とすれ違った瞬間、甘い香りがその空間に漂う。
この香りは、私が毎週金曜日に通うお店と同じ香り、柑菜を虜にさせたあのケーキ屋の香りだった。
柑菜は、つい後ろを向いて、その女の人を目で追うと、その人は道を曲がり、姿を消す、そう、そこはケーキ屋に続く道。