ケーキ屋の彼
3
「美鈴先輩、先輩ってもしかして、パティシエのこと好きなんですか?」
授業が終わったあと、チューターとして授業に出席していた美鈴に、涼は疑問を投げかけた。
教室にはもう誰もいないし、今が5限の授業だったため、次に使うこともなく、静かだ。
その沈黙の中待つ答えは、涼にとっても、そして柑菜にとっても、それ自体では複雑な心境になるであろう。
自分よりもずっと仲が良くて、ずっと大人で、近くにいることができて、そんな人が好きな人の周辺にいると知ったら、穏やかな気持ちではいられないはず。
「……うん、って言ったら、何か困る?」
意地悪くそう言う美鈴に、どう返事したら良いか、すぐに答えが出ず、涼は黙ってしまう。
その沈黙を、美鈴から破った。
「柑菜さんに関係あるとか?」
「それは……ただ、俺が聞きたいだけですよ」
嘘ではない、だけど、質問には答えていない。
「そっかあ、……うん、そうだよ、涼くんの言う通り、ずっと片思いしてる」
涼が質問に答えなくても、美鈴はなんとなく分かっていた。
乾いた風が、2人の間を通ったように、涼は感じた。