ケーキ屋の彼
こうやって過ごすうちに、こんな風に仲良くしていられるなら、俺は気持ちを伝えることなんてしない、と涼は心の中で呟いた。
わざわざ、この関係を壊す必要性を、見出せない。
もし、それがあるなら、それは涼が美鈴を嫌いになった時だ。
「柑菜さんに伝えて、今週の金曜日は、秋斗いるって」
そう思う反面、やはり好きな人の口から好きな人の名前を聞くことは、心が痛む。
人には諦めろと言うくせに、自分は諦めようとしないなんてなんて我儘なんだ、と涼は自分を嘲笑う。
「分かりました、伝えておきます」
「うん……よろしく」
涼も美鈴も、好きな人を思うと同時に、その自分の気持ちに自分で苦しめられる。