ケーキ屋の彼
お湯が沸くのを待っている間に、袋から買ってきたケーキを箱から取り出した。
袋は、小さく畳み、いつでも使えるように保管する。
柑菜は、まるで宝箱の蓋を開けるように、そっとケーキの入った箱を開いた。
すると、甘い香りが空間に広まり、まるでケーキ屋にいるかのような感覚に陥る。
その香りを嗅ぐと、パティシエのことが頭に思い浮かんで、柑菜の心臓がきゅんとなる。
しかしなぜだか同時に、柑菜の頭には、先ほどすれ違ったケーキの香りを身に纏うあの女の人も思い返される。
柑菜と同じく、お客様の一人なのかもしれない、なにか買い忘れをして、もう一度ケーキ屋に来たのかもしれない、などと自分の都合のいいように考えてしまう。
だけど、どこかやはり引っかかる。
もちろん、付き合えるとかそういうことは考えていない、といえば嘘になるかもしれないけれど、やはり気になってしまうのだ。