ケーキ屋の彼

涼は、沸騰する音が聞こえなくなっても、柑菜が斜め上を向いて固まっていて動こうとはしない様子を見て、一言話しかけることにした。


「お湯、沸いたぞ」


「え、あ……ごめんごめん」


考え事をしていて、なにも準備をしていなかった柑菜は、急いでコーヒーを淹れる準備をする。


「考え事?」


「ちょっと……ね」


「ふうん」


涼はまた、関心がなさそうな返事をした。


興味がないなら聞かなくてもいいのに、と思う反面聞いてほしい気持ちもある柑菜だったが、恋の相談を弟にすることの恥ずかしさで、言うのはやめておくことにした。


しかし、弟以外にも誰にも話していない柑菜は、相談する相手がおらずに、再び堂々巡りを繰り返す。


結局その日は、なにも解決しないまま次の日を迎える柑菜だった。
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