ケーキ屋の彼

亜紀は、プレゼントを置いて「そろそろ、このケーキ食べませんか?」と、櫻子と柑菜が選んで秋斗が作ったホールケーキを指差した。


秋斗がケーキを切ると、まずは今日の主役の亜紀から、その味を味わう。


「甘さと酸味がちょうどよいハーモニーになっていて、本当に美味しいです」


秋斗は、その言葉を聞いて目尻を下げた。


それは、柑菜の好きな笑顔。


柑菜は、迷っていた、今日を逃したらまたこうしていつ会えるかわからない。


せめて、連絡先を交換したいと。


「秋斗さんのケーキ、柑菜がハマるのが分かります、だって本当に美味しいから。ケーキが好きなんだなって、伝わってきます。ね、柑菜?」


「うん、本当にそう思う」


亜紀の言葉を聞いて、柑菜は亜紀が羨ましいと思った。


ーー私が伝えたいことを、緊張して直接顔を見て言えないことをこうして本人に伝えているのだから。


柑菜は、ぎゅっと右手を握った。
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