ケーキ屋の彼
亜紀以外の人たちも、ケーキをそれぞれ取る。
「取ろうか?」
秋斗は、美鈴にそう話しかける。
柑菜は、こういった小さなことで壁を感じてしまう自分に腹が立った。
今まで一緒にいた時間を考えれば当たり前のことなのに、美鈴に嫉妬をしてしまう。
そして、もしかしたら秋斗は美鈴のことが好きなんじゃないかとさえ思い始めた。
ーーここにいる人、それぞれが片思いしてるのかな……。
「柑菜ちゃん?」
櫻子が、ぼーっとしている柑菜の名前を呼んだ。
「ごめんごめん、ケーキ食べよっか」
「柑菜ちゃん、せっかく自由に恋できるのだから、少しだけ勇気出してもいいんじゃないかしら」
柑菜の心を呼んだかのように、櫻子が柑菜の背中を押す。
そして柑菜は、櫻子の口から出てきた『自由』という言葉に、少しだけ罪悪感を覚えた。