ケーキ屋の彼

「秋斗さん」


柑菜は櫻子から貰った勇気を絞り出して、ケーキを食べている秋斗に話しかける。


話しかけられた秋斗は、柑菜の顔を見た。


「あ、あの……」


何を言えばいいのか分からずに、柑菜は言葉を詰まらせる。


「今日はいい天気ですね」


その様子を見た秋斗は、当たり障りのない会話をし始めた。


「はい」


「こんな日は、散歩でもしたいです」


「そうですね」


そこで会話は終わってしまう。


柑菜は再び勇気を出して、秋斗に「あの……連絡先を交換したいです」と声を振り絞った。


秋斗は一瞬驚いた顔をする。


「はい、いいですよ」


この瞬間、秋斗と柑菜の関係が一歩だけ前進した。
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