ケーキ屋の彼
「それは……」
柑菜は、その言葉の意味を理解している。
それは初めて絵で賞を取った時から、感じていたことで、自分で自分に満足したり自分で勝手にできないと決めたり、それはただの自己満足にすぎないこと。
「ごめんね、ただ、柑菜ちゃんの絵が私は好きだからさ。もし、そういう環境があるならば大学院で絵を専門的に学んでほしいって思ったんだ。もちろん、教育に比べて厳しい言葉だって飛んでくるし、展覧会では一般の人に評価してもらえないことだってある。だけど、それも作品を生み出すには大事なことだし、柑菜ちゃんにはもっと揉まれてその絵のセンスをより磨いてほしいって、一ファンの声です」
『ファン』と言った時の美鈴は照れていて、その顔を見た柑菜は、心の奥底で何かが少しずつ動いているような感覚を覚えた。
そして初めて、美鈴のことが好きだと思った。
それまでは、秋斗という人物を通してしか美鈴を見たことがなかったから。