ケーキ屋の彼
「先輩、ありがとうございます。……考えてみます、大学院のこと」
「本当? よかった」
その2人の横で話を聞いていた秋斗の顔は、2人の表情と比べ、どこか曇りがかっていた。
一言も2人の会話に参加しようとせずに、じっと前を見ながら何かを考えているようだった。
「水の流れる音がする」
少し歩くと、木々の葉がざわめく音の中にサラサラという音が重なる。
それは、歩くほどに大きくなっていき、少し歩いた先で光が水に反射しているのが見えた。
「あ、橋だ」
3人で歩く中で、初めて秋斗が口を開く。
美鈴は、子供のようにはしゃいでおり、1人走って川のほうへ向かおうとするも落ちている枝に足を取られ、転びそうになる。
「危ない」
その声がした瞬間、柑菜の目の前で秋斗が美鈴の身体を抱き寄せた。
柑菜は思わずその光景から目を逸らした。
柑菜にとって、美鈴は背中を押してくれた尊敬する先輩で、だけどその美鈴は同時に恋のライバルで、そのことはどうしても受け入れることができない。
ーーごめんなさい……。