地味OLはシンデレラ
私は和真さんの腕に自分の腕を絡めた。
相手にわざと左手薬指の指輪が見えるように。
和真さんは私に優しい笑みを向けている。

「私の婚約者です。近いうちに結婚する予定です」
はっきりと告げた。
相手の顔が少し歪む。

「お食事は申し訳ありません。それでは失礼いたします」
私はぺこっとお辞儀して、和真さんのエスコートで会場を離れた。


エレベーターに乗り込むと、ふたりきりになった。
お互い顔を見合わせて、フーッと溜め息をついた。
気を張っていた全身に、血が通い始める。

さっきの光景が面白おかしく思え、笑いのツボにはまった。
「あははは!あの人の顔見ました?」
和真さんは心配そうに私の顔を覗き込む。
「いつもあんな空気の中、ひとり戦ってきたのか?」
「そうですよ~。負けたら終わりですから。毎回命懸けの戦いでした」
大げさでもなんでもなく、負ければ私の人生は誰かに利用され、終わってしまう。

ようやく私は戦いから解放される。
そして、偽装婚約者からも。
< 30 / 49 >

この作品をシェア

pagetop