ハライメ〜悪喰の大蛇〜
一、あざみと日菜子
どこかで鈴の音が響いた気がした。
私は階段を上る途中で足を止め、辺りを見回した。
古い石の階段の左右には木々が生い茂るばかりで何もない。
眼下には、私の家の母屋と離れが見える。
特に変わったものは見えなくて、気のせいだったかとまた階段を上り始めた。
この季節にしてはぬるい風が吹いて、私の伸びかけのショートカットをかすかに揺らした。
家の離れの裏から始まるこの階段は、裏山の中程にある「明式神社」へと続いていた。
「明式」の読みは「あけじき」で、語源はゲテモノ食いという意味の「悪食(あくじき)」らしい。
なんでも昔、罪を犯した人間ばかりを好んで襲って食べる大蛇がいたそうで、
初めは極悪人を裁く英雄として扱われたが、里に善人しかいなくなると腹を空かせ、人々に取り付いてはわざと罪を犯させた上で食らうことを繰り返したそうだ。
困り果てた人々の手によって大蛇は退治され、祟りをおこさないように神として祀られた……
それがこの神社の由来、ということになっている。