ハライメ〜悪喰の大蛇〜

日菜子が頭を上げた。

目が合った。

私は彼女を力づけようと、うん、とうなづいてみせる。

日菜子もうなづいて、小さくほほえむ。

そうして、戸が閉じられた。


それを見届けて、私たちの横にいた父ーーー氏子総代で矢鳥家当主の矢鳥雅史が、ハライメの消えていった戸に向かってお辞儀をする。

父は普段役所に仕事に行く時と変わらないワイシャツ姿だ。

ただし朝イチでに床屋に行ったおかげで、髪型だけはいつもよりきっちりと整えられている。

「じゃあ、よろしく頼むよ」

私たちにそう言うと、離れの裏の方へと回っていった。

通常のハライノギなら当主は儀式の間の出口の番をするのだけれど、
本年の今年は、七日七晩の儀式が終わるまで明式神社のお社の中に泊まり込むことになる。

正直、離れに篭るハライメよりもしんどそうだけれど、本人は「たまにはそうやって神様と親密になるのもいいもんさ」とのんきなものだった。


父を見送ってから、私と加代は儀式の間の戸を背にして縁側に正座した。

ウブモリの仕事は、ここでこうして日が沈むまで戸口を守って座っている事だ。

ハライメや当主と違って、日が沈んだら「おいとま」をいただいて、家に帰れることになっている。

他に、ハライメと当主に食事や体を拭く道具を届ける役目もあった。
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