ハライメ〜悪喰の大蛇〜
最初から一ページ一ページ目を通してみる。
当時の祖母の、何てことのない日常がつづられている。
家庭のこと、町内のこと、明式神社のこと……。
なかでも一番多く書かれているのは「雅史」についてのことだった。
雅史、つまり当時高校生だった父のことだ。
だけど、日菜子の母親の影はどのページにも見当たらない。
少しさかのぼりすぎたかと思い、私は次のノートを手に取った。
次のノートも、あまり変わり映えのしない内容が続く。
しかししばらくすると、それまで影の薄かった「定史」という名前が頻繁に登場し始める。
「定史さんの帰りが、近ごろやたらと遅い」
「ふらりと出て行ったまま、定史さんはもう三日も連絡をよこさない」
「どこに行っていたのか聞いても、定史さんははぐらかすばかり」
「定史さんはもはや相手の存在を隠す気もないようで……」
(定史……おじいちゃんの名前)
祖母はやたらと家を空けるようになった祖父の浮気を疑っていた。
最初はごまかしていた祖父は、しだいに愛人の存在を隠さずにふるまうようになる。
家にいる日より帰ってこない日の方が多くなっていく様子を、祖母はいらだった文章で記し続けていた。
実は私は、この祖父についてもあまりよく知らない。
祖母と父は、日菜子の母のこととはまた違う意味で、この人についてをあまり語りたがらなかったからだ。