ハライメ〜悪喰の大蛇〜
私が人々のうわさ話や父たちがぽつりと漏らした昔話の中から拾い上げてかろうじて知っている祖父のことといえば、
婿養子だったこと、矢鳥家当主としても氏子総代としてもあまり熱心な人ではなかったこと、それから……
『定史さんが外泊を続けて今日で二週間。いいかげん辛抱が出来ず、相手の方の家を探し当てて押し掛けた。
だが、へやはもぬけのからだった。大家の話では、その部屋に住んでいた夫婦は一週間前に夜逃げしてしまったという。
夫婦、とは、定史さんと相手の女のことだ。定史さんは私と矢鳥の家を捨て、その女とかけおちしたということだ』
―――ああ、やっぱりそうだ。
祖父は、愛人とかけおちして行方をくらませてしまったのだ。
20年以上も前の話とはいえ、自分の祖父母の痴情のもつれみたいな話を読むのはなかなか複雑な気分だった。
ノートはちょうどここでページが尽きていたので、私は次のノートを引っ張り出して開く。
……あれ、ちがう。
このノートの中身は、日記じゃなくて家計簿だ。
日記と全く同じ種類のノートを使ってるから、日記の束の中に紛れ込んでしまったんだろうか。
何の気なしにパラパラめくってみると、ノートの間から何枚かの紙が滑り落ちてきた。