ハライメ〜悪喰の大蛇〜
四、慕わしい人
「私にやらせてください」
日菜子は自分から手を上げた。
立候補したのだ。
娘たちのどちらかでハライノギ本年を行わなければならないが、どうしようか。
父が何気ない様子で、そう祖母に相談していた時だ。
私の16歳の誕生日を翌年に控えた、一昨年のことだった。
「めかけ腹の産んだ父無し子」
生まれた時からそんな二重のレッテルを貼られ、後ろ指を差されながら生きてきた日菜子。
日菜子は、「本年のハライメをつとめれば、自分で自分を認められる気がする」と言った。
他人が認めてくれなくても構わないと。
だけど、日菜子は本当は、認められたかったのだ。
育ての親である祖母に、自分のことを認めてほしかったのだ。
手を上げて祖母を見つめる日菜子の、いつもはおっとりした目に宿っていた強い光を覚えている。
その日菜子を見返す、値踏みするように冷めた祖母の目のことも。