ハライメ〜悪喰の大蛇〜
私の母は私が四歳のときに父と離婚し、私を置いて家を出て行った。
都会育ちだから、明式神社の氏子としての暮らしになじめなかったんだろうと父と祖母は言っていた。
幼い時に分かれて以来一度も会っていないから、もう顔もよく覚えていない。
思い出はぜんぶ昔のこと過ぎて、―――母がいなくなって悲しかったのかどうかも、忘れてしまった。
蔵で見つけた日記帳を、私は自分の部屋に持ち帰った。
全部で三冊。
A4サイズの厚めのノートに、手製らしい青色の布のカバーがつけられ、表紙に黄色の糸で「DIARY」と刺繍してある。
ずっとケースの中にあったからかカバーのおかげなのか、傷みはあまりないようだった。
……どうして出て行った人の日記帳なんかが家に残されているんだろう。
持ち出し忘れて、だけど取りに戻るほどのものじゃなかったから、そのまま置き去ることにしたの?
……娘の存在と同じように?
母に対する憎らしさと懐かしさが胸にこみ上げてくる。
閉じたきり忘れたつもりでいた感情のフタが開いてしまったみたいに。