ハライメ〜悪喰の大蛇〜
佳菜子ちゃんは一見大人しそうなお嬢さんだけれど、案外気が強くて茶目っ気のある子。
今日も受験勉強に励む姿をお義母さんに「雅史が許可したとはいえ、進学しようなんてずうずうしい」などとなじられていたのだけれど、
彼女はお義母さんが去ってから難しい顔をして、
「今の嫌味は30点ね。もっとボロカスに言ってくれた方が絶対合格してやるって意欲がわくのに」とぼやいていた。
私は笑ってしまって、「佳菜子ちゃんの好きなものをお夜食に作ってあげるから意欲を出して」と励ました。
「お姉ちゃんは100点」と言って彼女は喜んでいた』
私も思わず小さく笑う。
母の書く文章は、祖母のものよりもあたたかくて親しみやすい。
二人の年代の違いか……ううん、たぶん、人柄の違いだ。
私は母の人柄に引き込まれるように日記を読み続けた。
嫁いでから一年後、母は長女の「あざみ」を出産する。
このころの日記はほとんど育児日記で、初めての子育てに苦労しながらも幸せいっぱいでいる様子が文章から伝わってくるのがこそばゆい。
祖母の日記にもあったように、私が生まれてから数か月後、16歳を迎えた佳菜子をハライメとしてハライノギ本年が行われた。
ハライノギ本年のウブモリはハライメと同じく矢鳥家から出す決まりで、基本的に二人一組でつとめるため、はじめは祖母と母とでつとめる予定だった。
けれど「まだあざみから手を離せないだろう」と父が母の参加を止め、結局祖母一人でウブモリをしたようだ。