月と男と泡沫と
人魚のこと
ある深海。そこには、ほんの僅かに届く光を巧みに利用して生活する人魚たちが住んでいた。人魚たちは歌を歌ったり、踊ったり、そんな自由な生活を好み、日頃から賑やかな生活を営んでいた。その中でも、深い青の髪を持つリィリィという少女は、毎日長い髪を靡かせ泳ぎ回り、歌って踊ってと毎日どたばたと楽しい生活を送っていた。しかし、そんな自由を深く愛する人魚たちにも絶対に侵してはならないルールが存在した。
“人間を助けてはならない”
“人間を愛してはならない”
かつて、人間に恋し、悲劇の道を辿った人魚姫。その運命に多くの人魚が涙した。そのような自体には二度とさせないと作る出されたルールであり、これに反対する者は誰ひとりとして居なかった。
とある日のこと、いつもと変わらず皆と泳ぎ回っていたリィリィは突如なにやら影に覆われた。夜には早い。雨だろうか、それならば海が荒れる。早く帰らなくては。そう思って周りを見渡すも、あるのは照らされ、煌めく遊泳魚の鱗。そんなふうに考えてリィリィは首を傾げる。影が差しているのに鱗が光を反射している?不思議に思いついに上を見上げればゆったりと降ってくる一つの人影。
『なっ...!?』
リィリィはふわりと軽々とした身のこなしですぐさま落下地点から退くと、もう1度海面の方を見遣った。他に、特に変わった影は見られず、海の真ん中だというのに船などが浮かんでいるようにも見えない。水の中じゃ自由に動けない人間が、息もできないような人間が、こんな所まで沈まずに、一体どうして来たのか。謎は増えるが、このままあの人間が落ち続ければいずれ皆の元につく。もしも、いきなりこんな物が現れれば皆、吃驚してしまうだろう。そんなふうに思ったのか、リィリィはすぐにくるりと方向を変え、深い深い蒼へと潜っていった。
『お姉様!お姉様!大変よ!人間が降ってきたわ!どうしましょう!?』
リィリィは、海底の岩を利用して作られた家の扉を乱暴に開け放ち、開口一番そう、まるで叫ぶかのようなトーンで言い放つ。真珠や貝殻でアクセサリーを作っていた、リィリィの姉にあたるノアは、大きな音とその勢いにひどく驚いたのか、目を丸くさせ何度もぱちぱち瞬きを繰り返しながらリィリィを見つめていた。
『....ええっと、そう?それは、大変。だけどリィリィ。私達は助けてあげることは出来ないのよ?海に沈んでしまったのが運の尽き。...可哀想だけど、仕方が無いわ。ええ。そうだ。折角丁度いい時間にリィリィが帰ってきてくれたのだから少しお菓子でも食べましょうか。』
『そう、そうよね。ごめんなさい、お姉様。“どうしましょう”なんてまるで助けようとしているみたい。だけど私達は、人間は助けてあげられないものね。ううん。お菓子はいらないわ。きっとお母様がもうすぐお帰りになるでしょう?だから、お母様に差し上げて?私は、そう。チィの所へ遊びに行ってくる。夕飯までには戻るわ。じゃ、行ってきます』
事実と、優しさを詰め込んだノアの言葉に、リィリィは、ハッとしたように息を呑むと、申し訳なさそうに眉尻を下げる。先程乱暴に開け放った扉に、そっと手を添えると扉を押す。帰ってきた際には、リィリィの声と扉が激しく開く音で聞こえなかったが、今度はぎぃっという年季を感じる音を聞くことが出来た。心配そうに、行ってらっしゃい。と声をかけるノアの視線や、扉が閉まるドンっという音には振り返ることもなく、リィリィは友人であるチィの元へと向かうのであった。
ちょうどその事、人間の体が海底の砂地に着いたことも知らずに。
“人間を助けてはならない”
“人間を愛してはならない”
かつて、人間に恋し、悲劇の道を辿った人魚姫。その運命に多くの人魚が涙した。そのような自体には二度とさせないと作る出されたルールであり、これに反対する者は誰ひとりとして居なかった。
とある日のこと、いつもと変わらず皆と泳ぎ回っていたリィリィは突如なにやら影に覆われた。夜には早い。雨だろうか、それならば海が荒れる。早く帰らなくては。そう思って周りを見渡すも、あるのは照らされ、煌めく遊泳魚の鱗。そんなふうに考えてリィリィは首を傾げる。影が差しているのに鱗が光を反射している?不思議に思いついに上を見上げればゆったりと降ってくる一つの人影。
『なっ...!?』
リィリィはふわりと軽々とした身のこなしですぐさま落下地点から退くと、もう1度海面の方を見遣った。他に、特に変わった影は見られず、海の真ん中だというのに船などが浮かんでいるようにも見えない。水の中じゃ自由に動けない人間が、息もできないような人間が、こんな所まで沈まずに、一体どうして来たのか。謎は増えるが、このままあの人間が落ち続ければいずれ皆の元につく。もしも、いきなりこんな物が現れれば皆、吃驚してしまうだろう。そんなふうに思ったのか、リィリィはすぐにくるりと方向を変え、深い深い蒼へと潜っていった。
『お姉様!お姉様!大変よ!人間が降ってきたわ!どうしましょう!?』
リィリィは、海底の岩を利用して作られた家の扉を乱暴に開け放ち、開口一番そう、まるで叫ぶかのようなトーンで言い放つ。真珠や貝殻でアクセサリーを作っていた、リィリィの姉にあたるノアは、大きな音とその勢いにひどく驚いたのか、目を丸くさせ何度もぱちぱち瞬きを繰り返しながらリィリィを見つめていた。
『....ええっと、そう?それは、大変。だけどリィリィ。私達は助けてあげることは出来ないのよ?海に沈んでしまったのが運の尽き。...可哀想だけど、仕方が無いわ。ええ。そうだ。折角丁度いい時間にリィリィが帰ってきてくれたのだから少しお菓子でも食べましょうか。』
『そう、そうよね。ごめんなさい、お姉様。“どうしましょう”なんてまるで助けようとしているみたい。だけど私達は、人間は助けてあげられないものね。ううん。お菓子はいらないわ。きっとお母様がもうすぐお帰りになるでしょう?だから、お母様に差し上げて?私は、そう。チィの所へ遊びに行ってくる。夕飯までには戻るわ。じゃ、行ってきます』
事実と、優しさを詰め込んだノアの言葉に、リィリィは、ハッとしたように息を呑むと、申し訳なさそうに眉尻を下げる。先程乱暴に開け放った扉に、そっと手を添えると扉を押す。帰ってきた際には、リィリィの声と扉が激しく開く音で聞こえなかったが、今度はぎぃっという年季を感じる音を聞くことが出来た。心配そうに、行ってらっしゃい。と声をかけるノアの視線や、扉が閉まるドンっという音には振り返ることもなく、リィリィは友人であるチィの元へと向かうのであった。
ちょうどその事、人間の体が海底の砂地に着いたことも知らずに。