麗しき日々
「ふ―っ、座ろうぜ」
そういうと、副社長は床に座りこんだ。
「えっ。でも、すぐ開くみたいですから」
私は入り口の扉を見て言った。
「いや。まだ、しばらくかかるらしいぞ。今メールがあった」
「そんなぁ」
私は心細い悲鳴をあげた。
「いいから座れよ」
副社長は自分の隣を指差した。
私は、副社長から少し離れて座った。
何を話していかも分からず沈黙が続く……
雨の音が少し和らいだ気がする。
もう少しで、明かりも点くだろう。
そんな事を思っていたのだが……
また、ガラス窓がコツコツとノックされた。
窓を見ると、一本の長い棒で叩いているようだ。
「おお!」
副社長は、まるで待っていたかのうように声を上げて立ち上がると、窓を開けた。
棒の先に縛ってあるロープを手に持つと、窓の外へ手を振って何やら合図した。
明らかに雨は上がっている。
すると、ロープを伝わって、買い物袋が窓の外から入ってきた。
どういうことだ?
私は気になり、窓から顔を覗かせた。
すると、隣の部屋の窓から、栗林さんが笑顔で手を振っている。
ええっ?
他の部屋は明るく光りが漏れている?
「ねぇ? 停電直ったんじゃ……」
私が振り向こうとすると、首筋にヒヤリと冷たいか感覚に身を縮めた。
前にもこんな事があった。
いつの間にか、濡れたシャツを着替えた副社長が後ろに立っていた。
さっきの袋に、着替えと、ミネラルウォーターと軽食が入っていたようだ。
首筋の冷たい感覚は、ペットボトルのミネラル―ウォーターだった。
副社長から受け取ると、喉が渇いていた事に気が付いた。
私がゴクゴクと飲む横で、副社長は立ったまま私を見ていた。
「覚えているわけないよな……」
副社長は、少し寂しそうにボソッと言った。