麗しき日々
「おはよう、湖波」

 後ろからの声に振り向く。


「ああ、香。おはよう」


「昨日は大変だったわね…… でも、すぐ停電直ってよかったね。システムにも異常なかったみたいだし」


「えっ、そうなの?」


「うん。湖波と電話を切った後すぐに、明るくなって。栗林さんが、もう大丈夫だって言うから、帰ったんだけどね」


「そう、結構時間かかったけど……」

 私は不穏な顔で香を見た。


「まあ、副社長も以外に社員思いよね。ていうか、湖波だからだったりして……」

 香がにやりとこっちを見た。



「相手は副社長よ。そんな事あるわけないでしょ!」


「そうかな? じゃあ、河合さんと飲みに行こうよ」

 香は横から顔を覗かせて言った。


「どうしてそうなるのよ。行かないわよ」

 私は歩く足を速めた。


「ちょっと待ってよ―」

 香が追い掛けてくる。



 そして、はるか先の正面玄関から、副社長が入ってくる姿が見えた。思わず、足を止めた。

 みなが頭を下げる中、堂々と表情一つ変えずに歩く。

 副社長の視線が、チラッとこっちを見た気がしたが、そのままエレベーターへと乗り込んで行った。


 夕べあんな事があったなんて、これっぽっちも感じさせない、いつもと変わらない凛々しい姿だ。



「やっぱり、副社長、湖波の方見たよね……」


「気のせいだってば……」


「だけど夕べ倉庫で、副社長と何喋ってたのよ?」


「べ、別に何も話してないわよ」


「ふ~ん。じゃあ、河合さんでいいじゃない」


「もう、しつこいよ!」


 香を追い払うように、総務へと向かった。
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