麗しき日々
強引な優しさ
あれから、副社長とは会う事も無く過ぎていた。
やはり、お礼を言った方がいいのでは? と思い始めた時。
偶然にも栗林さんと廊下ですれ違った。
そうは言っても、あの時この人も待っていてくれたのは事実だ。
「すみません。この間の停電の時には、お世話になりました」
私は深々と頭を下げた。
「いえ、とんでもない、システムの不具合で……」
栗林さんは、相変わらず涼しい笑顔で言った。
「そうですよね…… 他の部屋は直ぐに、明かりが点いたらしいですけど……」
私は少々嫌味を含んで言った。
「そういう事もあります……」
笑顔のままの栗林さんが私を見た。
「へぇ~」
私はジロリと笑顔の栗林さんを睨んだ。
クスッと栗林さんは笑う。
「でも、あの停電の時、偶然、倉庫へ向かって血相変えて走る一ノ瀬さんと遭遇したんす。森田さんが倉庫に閉じ込められたと、泣きそうな顔で訴えてきたんです。
それを聞いた副社長が、私の止める間も無く倉庫へ走って行ってしまって、雨の中、三階の窓から出てってしまったんですよ。
いつも冷静な副社長が、あんなに血相抱える姿に、正直言って私も焦りましたよ」
栗林さんは、いつもの涼しい笑みに加え、少し困ったように眉間に皺が寄っていた。
「副社長が? 本当に助けに来てくれたんですね……」
「勿論、それは間違いないですよ」
「でも……」
私は抱いている疑問に下を向いた。
「仕方ないです。副社長は、ああ見えて不器用な人ですから…… 倉庫で森田さんと二人きりになって、もっと一緒に居たかったんでしょうね……」
「そんな…… だけど私、あれから副社長にお礼も言えて無いし…… それに、あの時も居なくなっちゃって……」
「ぷっ」
と、栗林さんは吹き出すと、思い出したように言った。
「副社長は、森田さんに怒られると思って、慌てて逃げたんですよ。困った人ですね」
栗林さんは、また涼しい笑顔向けると、頭を下げて行ってしまった。
私は、ふう―っと、ため息を着いた。
そのため息が聞こえたかのように、栗林さんが振り向いた。
「そうそう、総務にお願いしてある書類があるんです。申し訳ありませんが、後で副社長室に持って来て頂けませんか?」
「ええ?」
思わず心の声が漏れてしまった。
「これは仕事ですよ!」
栗林さんの厳しい声に、ビクッととなってしまった。
「すみませんっ」
私は慌てて頭を下げた。
「では、よろしくお願いします」
そう言って去っていく森田さんの背中に、また、ため息が漏れてしまった。
やはり、お礼を言った方がいいのでは? と思い始めた時。
偶然にも栗林さんと廊下ですれ違った。
そうは言っても、あの時この人も待っていてくれたのは事実だ。
「すみません。この間の停電の時には、お世話になりました」
私は深々と頭を下げた。
「いえ、とんでもない、システムの不具合で……」
栗林さんは、相変わらず涼しい笑顔で言った。
「そうですよね…… 他の部屋は直ぐに、明かりが点いたらしいですけど……」
私は少々嫌味を含んで言った。
「そういう事もあります……」
笑顔のままの栗林さんが私を見た。
「へぇ~」
私はジロリと笑顔の栗林さんを睨んだ。
クスッと栗林さんは笑う。
「でも、あの停電の時、偶然、倉庫へ向かって血相変えて走る一ノ瀬さんと遭遇したんす。森田さんが倉庫に閉じ込められたと、泣きそうな顔で訴えてきたんです。
それを聞いた副社長が、私の止める間も無く倉庫へ走って行ってしまって、雨の中、三階の窓から出てってしまったんですよ。
いつも冷静な副社長が、あんなに血相抱える姿に、正直言って私も焦りましたよ」
栗林さんは、いつもの涼しい笑みに加え、少し困ったように眉間に皺が寄っていた。
「副社長が? 本当に助けに来てくれたんですね……」
「勿論、それは間違いないですよ」
「でも……」
私は抱いている疑問に下を向いた。
「仕方ないです。副社長は、ああ見えて不器用な人ですから…… 倉庫で森田さんと二人きりになって、もっと一緒に居たかったんでしょうね……」
「そんな…… だけど私、あれから副社長にお礼も言えて無いし…… それに、あの時も居なくなっちゃって……」
「ぷっ」
と、栗林さんは吹き出すと、思い出したように言った。
「副社長は、森田さんに怒られると思って、慌てて逃げたんですよ。困った人ですね」
栗林さんは、また涼しい笑顔向けると、頭を下げて行ってしまった。
私は、ふう―っと、ため息を着いた。
そのため息が聞こえたかのように、栗林さんが振り向いた。
「そうそう、総務にお願いしてある書類があるんです。申し訳ありませんが、後で副社長室に持って来て頂けませんか?」
「ええ?」
思わず心の声が漏れてしまった。
「これは仕事ですよ!」
栗林さんの厳しい声に、ビクッととなってしまった。
「すみませんっ」
私は慌てて頭を下げた。
「では、よろしくお願いします」
そう言って去っていく森田さんの背中に、また、ため息が漏れてしまった。