麗しき日々
その後は、仕事に集中出来ないまま終わってしまった。
ぼーっと、駅までの道を歩いているようだ。
「湖波!」
名前を呼ばれた声に、振り向く事が出来ず立ちつくしてしまった。
だが、グイッと手を掴まれた。
「メシ、食いに行こう」
副社長は、当たり前のように、私の手をとり、歩き出した、
「ちょ、ちょっと……」
私の声など聞こえないかのように、副社長の顔には笑みがあった。
会社では見る事の無い顔だ。
胸の奥がキュンと音を立て、副社長の笑みに、ほっとさえもしている。
いつもは車のはずの副社長が、駅に向かっている。
いつもとは逆方向の電車に乗り、副社長と並んでいる事に不思議な気分だ……
同じ車両の若い女の子達が、チラチラと副社長を見る。
やっぱり、カッコよくて目立つのだろう。
副社長が向かったのは、普通の……
イヤ、少し薄汚れた焼き肉屋だった。