麗しき日々
 
その後は、仕事に集中出来ないまま終わってしまった。


 ぼーっと、駅までの道を歩いているようだ。


「湖波!」

 名前を呼ばれた声に、振り向く事が出来ず立ちつくしてしまった。

 だが、グイッと手を掴まれた。


「メシ、食いに行こう」


 副社長は、当たり前のように、私の手をとり、歩き出した、


「ちょ、ちょっと……」


 私の声など聞こえないかのように、副社長の顔には笑みがあった。

 会社では見る事の無い顔だ。


 胸の奥がキュンと音を立て、副社長の笑みに、ほっとさえもしている。


 いつもは車のはずの副社長が、駅に向かっている。

 いつもとは逆方向の電車に乗り、副社長と並んでいる事に不思議な気分だ……


 同じ車両の若い女の子達が、チラチラと副社長を見る。

 やっぱり、カッコよくて目立つのだろう。



 副社長が向かったのは、普通の…… 


 イヤ、少し薄汚れた焼き肉屋だった。
< 21 / 43 >

この作品をシェア

pagetop