麗しき日々
 焼肉屋を出ると、駅へと向かう。

 自分のアパートへ向かうホームに行こうとしたのだが、副社長に腕を掴まれ、また家とは反対の方向のホームへと引っ張られてしまった。


「ちょっ、ちょっと。家、反対なんですけど、手……」

 私は、引っ張られている手に力を入れて言った。


「知ってる…… もう少しいいだろ」


 副社長は、また、少しニコリと笑みを見せて言った。

 私は、また、断れなくなってしまった。


 副社長は、私の知らない駅を出ると、真っ直ぐに歩いた。


 副社長が向かったのは、見上げても上がはっきり分からいほどの高層マンションだった。

 副社長は私の手を取ったまま、エントランスを抜けエレベータの前でピピピッと暗証番号を入力した。


 エレベーターは、なんと最上階まで一気に上って行った。


 カードキーでドアを開けると、まるでホテルのような部屋に、高そうなソファーがある。


 窓からは夜景を見下ろせる。


「わ――っ」


 思わず歓声を上げてしまった。


 が、しかし、違和感がある。



 この、素敵なマンションの一室なのだが……


 私の体からは、焼き肉の匂が鼻について回る。
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