麗しき日々
夕方五時十分前……
私は副社長に頼まれた書類を手に総務を出た。
誰も居ないエレベーターの前に立った。
「森田さん?」
女性の声に振り向くと、明美が立っていた。
「お疲れ様です」
声など掛けてきたことの無い明美に、違和感を覚えながら挨拶をした。
「その書類、副社長に持っていくのよね?」
明美は私の手にしている封筒に目を向けた。
「はい。そうですが……」
「ねえ、私が持っていきましょうか? 丁度、手も空いているし」
明美は、今にも書類に手を伸ばす勢いで言った。
「いえ、結構です。私の仕事ですから!」
私はきっぱり言った。
「いいじゃない! そんな書類、誰が持って行っても同じでしょ。よこしなさいよ!」
「いえ、私に頼まれた責任があります」
「はあ? 私に逆らうの!」
「明美さん。まだ就業時間ですよ。あなたの仕事は、受付のはずですよね。持ち場を離れるなんて無責任なんしゃないですか?」
私は、気持ちを押さえ落ち着いた口調で言った。
「全く、何よ! 融通効かないんだから、そんな風だから男も出来なのよ!」
明美は吐き捨てるように言うと、ヒールを鳴らし去って行った。
私が、ふう―っと、ため息を着くと、エレベーターの扉が開いた。