羽化
切ない晩餐をすませ洗い物をしてようやくひと段落したあと、リビングのテーブルに着き、仕事用のバッグからボールペンと一冊のノートを取り出した。
このノートは仕事帰り、コンビニで買ってきたものだった。
したがって、まだラッピングされたままになっている。
わたしはそれをつめでかりかりと、中のノートが傷つかないように剥がして、ノートの表紙にいっしょに取り出したボールペンでこう書いた。
「交換日記」。
これはわたしの決心。
これから奴を……、吉水貴司を躾けるための、そのための手段なのだった。
そう。考えてみれば吉田の言うとおりだ。
今のままわたしが日和って見ていたら、あいつはいつ本当に不当な解雇をされてしまうかわかったもんじゃない。
……かもしれないのだ。
お人好しの貴司のこと、もしかしたらそれさえも、甘んじて受け入れかねない。
それは……、そんなことになるのだけは、絶対に許しちゃいけないし、阻止せねばならないのだ。
とはいっても、仕事中にわたしがずっとあいつの見張りをしていることなんてできない……。
そこで、じゃじゃーん。このノートの出番なのでした。
会話では伝えにくいことも、これなら遠慮なくいえるはず。
あいつの良いとこ悪いとこ。サラサラスラっと書いちゃうぞ。
――それにしてもなんでよりにもよって、今時交換日記なのか?
その理由はふたつある。