羽化

――とにかく、こういった込み入った事情のもと、真剣に挑む代物なのだ。けっして遊びではないことを理解していただきたい。



ひとりでにやけてノートを眺めながら、わたしはケータイ片手にさっそく貴司にその旨を伝える。

電話越しの貴司は、いつもの柔和な口調で、

『交換日記か。そういうのやるの初めてかも。面白そうだね』

と、笑った。

「でしょ? なんか青春思い出すでしょ」

『僕らが学生のころには、もうケータイがあったからねえ』

「そうじゃなくって、ドラマ的なはなし! テレビで子どものころに、見たり聞いたりしなかった?」

『ああ、したね』

「わたし、ああいうのちょっと憧れてたんだよね」

わたしがそう言うと、貴司はまた笑った。

『イメージ違うな。ちょっとそれ』

「そうかなあ」

『だって、由加里ちゃん、いつもそういうものに興味なさそうにしてるんだもん』

「なくないっつうの。貴司が全然そういう企画してくれなかっただけじゃん!」

わたしが憤慨すると、彼、少し恐縮してしまったようで、

『そうか。ごめんね、時間とれなくて』

と謝った。

それにわたしは内心まったくだあ、と思いつつ、

「ううん。貴司が忙しいのはわかってるから。それはいいんだけど」

なんて言ってみる。

「でもさ、だからこそ、これからこれでいっぱいお話しできるでしょ?」

そしてフォローも忘れない。

『そうだね。どういうこと書いたらいいのかよくわからないけど、まぁ思いつくままやってみようか』

「そ。肩肘張らずに、ね」

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