羽化
通話を終えたわたしは、さっそく「交換日記」の最初のページをめくる。
それから、右手の腹でページの根を押さえ、くーっと上から下に滑らせてくせをつけた。
肩肘張らずに――。
貴司にはそう言ったものの、わたしだって交換日記なんて代物、付けるのは初めてなわけで、どう書き初めたものか少しの緊張を覚えた。
まず絶対に書き添えておかなくちゃいけないこと。
それは当然、お互いの仕事についての連絡。
これこそがそもそもの発端であり、目的なのだから。
貴司はあの性格だ。
こっちから話題をふらなければ、自分からは他愛のないことしか書いてくれないだろう。
だからわたしから……、言い出しっぺのわたしから、覚悟を決めて。
自分がしてしまった、どんな些細なミスも、くだらない失敗も正直に……。
そうすれば、彼の方も同等に腹を割った内容で返してくれるに違いないから。
わたしが今日やってしまったミス。
会社でのミス。
……あ。
不意に吉田のふくれっ面が脳裏に浮かぶ。
後輩への配慮をおこたった言動。
これは恥ずかしいけれど、立派にわたしのミスだった。
わたしはボールペンを手に取り、その真新しい紙の上に引かれた罫線の頭一行を空けて、今日の日付と天気を記述し文頭の挨拶と少々の辞令の後、ちょっぴりおてんばで、でも憎めない後輩の紹介と、彼女にしてしまった大人げない自身の態度について書き記した。