羽化

「吉田ー、でもねぇ、内助の功っていうけど、具体的になにしてりゃいいのさ?」

ほろ酔い加減でわたしが問うと、左斜向かいの席に座る吉田はきょとんとした。

「なにですかぁ?」

すると正面に座る定元君、またもギャハハと笑いだし、

「ナニしてりゃいいって? シモはやめろよ石ちゃん!」

笑い上戸おやじっぷりを爆発させた。

「ナニナニィー?」

これは右斜向かいの和美。

「なにってそういう意味だったんですか石野さん! ぎゃー! 下品だあ!」

こら! 乗っかるな吉田!

「吉田に訊いてんだいわたしゃ。他のどエロどもは、だあってなさい!」

ストロー突き付けビシッと叱りつける、まとめ役と呼ぶにふさわしい存在、それがわたし。

「あ、おにいさんこのカクテル追加ね。他いる人ー」

そして即座にストローをくいっと半回転させ、すでにからになったグラスを指して手近な店員に追加注文。

もちろん他への配慮も忘れないリーダーシップ、それがわたし。

「まだいけるんですかぁ? もう私は……。石野さんって、ザルですねぇ」

「ああん? 吉田、あんたザルが飲みたいって? ようし注文してやるから待ちなさい」

「うわあ! すいませぇん。もう言いませんからぁ」

後輩への教育をこんな時でも忘れない、仕事熱心なオンナ、それがわたし。

おっと。吉田がザルなんか頼むから、わたしの店員が困惑しているじゃないか。

「他いいのー?」

わたしは再度確認する。

ん? なんだ定本ぉ、そのメトロノームみたいに左右に振る手はぁ。

「じゃあ、僕ビール追加」

空気を読み、中身を一気に飲み干した貴司は、元気にそのジョッキを掲げた。

よっしゃあ! それでこその我が盟友!

「うわぁ。ザルカップルだ……」

それを見た吉田の奴、こりもせずに言いやがった。

貴司はなんだか笑って、

「そうでもないよ。由加里ちゃん、そろそろいい加減でしょ?」

とか、勝手なことを言った。


うるさい! わたしは酔ってなーい!

< 20 / 51 >

この作品をシェア

pagetop