羽化
「吉田ー、でもねぇ、内助の功っていうけど、具体的になにしてりゃいいのさ?」
ほろ酔い加減でわたしが問うと、左斜向かいの席に座る吉田はきょとんとした。
「なにですかぁ?」
すると正面に座る定元君、またもギャハハと笑いだし、
「ナニしてりゃいいって? シモはやめろよ石ちゃん!」
笑い上戸おやじっぷりを爆発させた。
「ナニナニィー?」
これは右斜向かいの和美。
「なにってそういう意味だったんですか石野さん! ぎゃー! 下品だあ!」
こら! 乗っかるな吉田!
「吉田に訊いてんだいわたしゃ。他のどエロどもは、だあってなさい!」
ストロー突き付けビシッと叱りつける、まとめ役と呼ぶにふさわしい存在、それがわたし。
「あ、おにいさんこのカクテル追加ね。他いる人ー」
そして即座にストローをくいっと半回転させ、すでにからになったグラスを指して手近な店員に追加注文。
もちろん他への配慮も忘れないリーダーシップ、それがわたし。
「まだいけるんですかぁ? もう私は……。石野さんって、ザルですねぇ」
「ああん? 吉田、あんたザルが飲みたいって? ようし注文してやるから待ちなさい」
「うわあ! すいませぇん。もう言いませんからぁ」
後輩への教育をこんな時でも忘れない、仕事熱心なオンナ、それがわたし。
おっと。吉田がザルなんか頼むから、わたしの店員が困惑しているじゃないか。
「他いいのー?」
わたしは再度確認する。
ん? なんだ定本ぉ、そのメトロノームみたいに左右に振る手はぁ。
「じゃあ、僕ビール追加」
空気を読み、中身を一気に飲み干した貴司は、元気にそのジョッキを掲げた。
よっしゃあ! それでこその我が盟友!
「うわぁ。ザルカップルだ……」
それを見た吉田の奴、こりもせずに言いやがった。
貴司はなんだか笑って、
「そうでもないよ。由加里ちゃん、そろそろいい加減でしょ?」
とか、勝手なことを言った。
うるさい! わたしは酔ってなーい!