羽化

「十八回ですよ? 十八回。今年になってからこれで!」

わたしの隣のデスクに座る吉田は、小声ながらも語気荒く言った。

「へえ、そんなの数えてたんですか、あいかわらず律儀ですね」

わたしはそれに笑顔で応える。

すると吉田さん、

「そんなの誰が数えますか! 残るんですよ、こういうの。管理されちゃってるんです。今のこのご時世、こんなんじゃ出世にひびきますって、ゼッタイ!」

ますます語気荒くなってしまった。

それに「はあ」と返事をし、

「でも、わたしにそんなことを言われても、吉水さんのミスは減らないんじゃないですか?」

思ったとおりのことを言ってみた。

するとさらに吉田、

「なーに言ってんです。石野さん、あなた彼と付き合っているんでしょう? なら、これは連帯責任です。責任もって彼を更生させてあげないと、これから苦労するのはあなたですよ」

なにやら余計なお気遣いをしてくださった。

「あのね吉田、いい加減にしてよ。彼がミスしたから、その尻ぬぐいで忙しくなってるのは、わたしだって同じなの。だいたい、そんなの関係ないでしょう。部署も仕事の内容だって、彼とわたしじゃ全然違うんだから。――はいこれ、上がってきたぶんです。チェックよろしく」

わたしはその雑談を切るように、ばさっと吉田のほうへコピー紙の束を預けた。

それを見た彼女は眉間に皺をよせ、口をへの字にするというわかりやすく正直な反応をした。

そして、なにか汚いものを持つみたいにして受け取り、じろっとこっちを見つめた。

どうやらまだなにか言いたいようだったが、わたしがそれを放っておいて手を進めるのを見ると、ようやく諦めたようで、

「はーあ、残業手当、ちゃんとつくのかなぁ」

と、仕事を再開してくれた。

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