羽化
その日のお昼休み。
会社近くの牛丼屋でお昼をすませて一服していたところで、私は、ちょうどいっしょだった、昨日わたしの代わりに吉田をみてくれていたこいつに訊いてみることにした。
「――あ、そうだ。ねえ、和美。昨日、吉田となんかなかった?」
わたしの質問に、茶をすすりながら、意外そうな顔で「ん?」と鼻で返事した和美は、湯飲みから口を外すと、
「なにって?」
と逆に訊き返してきた。
「さあ? わからないけど、今日変だったから。あの子」
わたしは和美の問い返しに、本人が朝言ったことは伏せて返事をした。
「昨日? さあね。別にとくに変わったことはなかったと思うんだけどね」
「そっか」
「吉田、なんか言ってるの?」
わたしは手を皿のように平を上にして掲げ、お手上げといったふうにして、
「なにも言わない」
と嘆息した。
すると和美、
「気のせいじゃないの?」
と言う。
……気のせいで仕事を辞めるとは言わないと思うんだけど。
結局話題はそれで流れ、この時はとくになにを得たということもなかった。